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ソトと元の面とが分離していく際に、元の面を壊してしまう。それで合いかにしてセメントを取り除くかについて困っております。ですから、現在は一番いい方法だと思ってもそれが10年、20年、あるいは50年経ったら、あれはまずかったというようになりかねない。ですから、現在は、もう壁が落ちかけているようなものをやむを得ず止めるというような程度で、最小限の方策に留めて欲しいというのが私の要望です。
それから、色々な復元をするわけですが、その時にも私は出来るだけ元の姿になるようなかたちで修復して欲しいという期待を持っております。だから私は一つの例としてこの敦煌の石窟の修復の状況をずうっと拝見してきているわけですが、これについては、私の意見が実はありまして、今は金属の扉で蓋をしてそれから石を混ぜた壁で止めていらっしゃいますが、あれである程度の修復は出来ていると思いますが、いかにも修復をしたんだというかたちが見えてきて何となくあれは本来の敦煌の石窟にそぐわないんじゃないかと感じます。
敦煌の石窟の前には、今でも大仏の前に残っていますが、本来は木造建築があったんです。私が1957年に初めて来ましたときにはまだ石窟の前には木造建築の梁材の一一部が壁から突き出たかたちでたくさん残っておりました。現在それはほとんどなくなっております。私はやはり敦煌の石窟を本当に最終的に復元するとすれば、やはり昔の姿のような木造建築を石窟の前に作って頂くと、元の姿が出てくる。しかも、前に木造建築があれば、扉と同じ効果がございまして、いわゆる外気が入ってくることが防げる。しかも直接風も当たりませんから、風の書も、砂なんかも奥行きの深い木造建築になりますと中に入り込むということも、私の単なる印象ですけれども、やわらげる。
というのは敦煌の石窟というのは本来木造の建築が前にあったんです。そこでお坊さんたちが修行し、そこで、色々な人がお参りしていたという、その姿がやはり本来の姿ではないかと思われます。ただ、あそこに全部木造建築を作るということは大変な費用と日数が掛かるのではないかと想像されますから、それを何もすぐ完全にやったらいいと言ってるわけではございませんで、一年に1つか2つでもいい、進んでいけば10個作っていくとそういうふうにして徐々に完成していけばやがてはまた昔の唐の時代、あるいは西夏の時代の敦煌の石窟寺院が再現できるのではないかと考えます。
私は敦煌の石窟の観光活動について・あそこの現状が当時の人が見たと同じようなそういう姿に復元できるということが一番望ましいと思っております。その点で私はこちらの方がやられていることで大賛成なことは、あそこにホテルとかいうものをほとんど作っていらっしゃらない。これは非常にいいことではないかと思います。あの景色を見れば当時そこで暮らしていた人たちが見ているのと同じ景色が見える。そういうものを壊さないように、そういうものを壊すような建物は出来るだけ控えたい。
だが、美術中心の建物が新しく出来ておりますが、あれも低く作ってらっしゃいます。あれは将に私には我が意を得たりという感じでございます。出来るだけあそこにはそういう新しい高層ものを避けて、今のようなやり方が非常に結構なことだというように思っております。今の私の勝手な意見は、実は、奈良でやりました敦煌文化遺産国際シンポジウムという研究者だけの場であったものですから、何も遠慮することはないということで話したことでございまして、今回の場合は一つのそういう意見があるというふうに気軽に聞いて頂きたいと思います。
最後に目的として、観光客が入ってくることによって色々な影響がある。しかし、観光客をシャットアウトするということは出来るだけ避けて欲しい。その兼ね合いをどううまく調整していくかという、これが観光事業の大きな知恵になろうかと思います。どんなに優れた保存の技法を講じましてもそれで永久に保存できるということは絶対にございません。ですから、ある程度は傷んでいくということはやむ得ない、そのためには十分に現在の現状を調査し、そして、記録としても残す。そして、永久には保存できないけれども出来るだけ永く保っていけるような保存の方法を考える。観光客に対しても観光客の影響というものを出来るだけ最小限にくい止めるようなそういう保存対策を考えて欲しい。最初に申し上げましたように今回私たち

 

 

 

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